〜ヒロイン不在のゲーム〜
何故女性ファンの心を掴んだのか

『幻想水滸伝』は、女性ファンの多いゲームだという。初代の時からそうだったが、2では何と購買層の半分が女性とのこと。元々RPGは女性購買層の多いジャンルだが、半分を占めるというのは尋常ではない(ちなみに、全ジャンル平均では女性購買層は約二割と言われている)。

男性ユーザー層をほぼ完璧に無視した作りになっている『アンジェリーク』の女性購買層が七割(ただし、初代SFC版。今ではもう少し女性の占有率が高いか?)ということを考えても、幻想水滸伝の五割女性という数字が如何に高いかを物語っている。

幻想水滸伝はそもそも口コミでブレイクしたゲームで、その辺りも女性特有のネットワークが働いていることが判る(アンジェもそうでした)。同人やインターネットでの女性人気も高く、そのハマリ方はディープなものが多い。同じ「女の子に人気」でも、例えば「『パラッパ』が女の子にウケてる」というのとは根本的に異なる現象と思われる。

何故、このようなコアな女性層にこの作品が受け入れられたのか? 私の個人的な説では『ヒロイン不在』というところが大きいような気がする。2こそナナミというヒロインが登場するが、彼女も同性から見てそれほど嫌味なタイプではなく、物語の本筋はあくまでも主人公とジョーイに絞られている。

1においては、そもそも本来的な意味でのヒロインが存在しない。オデッサは序盤で死んでしまうし、レックナートもヒロインという立場ではないし、カスミも本筋から見れば雑魚キャラである。では1のヒロインは誰だろうか? それは言うまでもなくグレミオ、そしてテッドである。

ヒロインの役割というのは大きくふたつあって、ひとつは主人公の恋人であり母であり妹である美少女…つまりは『主人公を支える異性』である。FF7で言えばティファがこれに当たる。

もうひとつがストーリーの謎を握る神秘的な存在としての異性である。古代何とかの生き残りの美少女だったり、突如現れる記憶喪失の美少女だったり、出生に秘密のある無口な美少女だったりする。FF7で言えば、エアリスがこれに当たる。
ちなみにこのタイプのヒロインは、ストーリーの謎を握っているだけでなく、主人公を『事件に巻き込み、冒険に向かわせる』きっかけ役を兼任している場合が多い。

大抵の王道ものストーリーでは、ヒロインはこの二つを両方満たしていて、主人公はヒロインをめぐってストーリーの謎を解きつつ、彼女と恋に落ち、最終的には大団円となる。
(FF7はヒロイン性を二人に分割して与えたため、そうなりませんでした。ゼノギアスは分割しなかったので、ヒロイン性がエリィ一人に集中しています)

話を幻想水滸伝に戻すと、この『主人公を支えるヒロイン』の役をグレミオが演じ、『ストーリーの謎を握るヒロイン』及び『冒険のきっかけとなるヒロイン』をテッドが演じているのは明白で、通常のシナリオライターならば、彼ら二人は美少女キャラにして然るべきだったろう。

グレミオがヒロインであることは、最後に復活するのがグレミオであることからも判る。男性ユーザーの多くはグレミオよりもオデッサを生き返らせて欲しかったのではないかと推察するが、そうはならなかったところにこの作品の『ツボどころ』があるように思う。

実際、グレミオが美少女だったら、テッドが美少女だったら、彼らが自己犠牲によって命を落とすシーンはどのようになっていただろうか? もちろん、感動的なシーンになったには違いないが、今のように多くの女性の心を打っただろうか?

私は長年(?)女性が萌えるゲームとは如何様なものだろうかという研究をしてきたのだが、幻想水滸伝はある意味反則的なシナリオである。何しろ、ヒロインそのものを男性キャラにしてしまったのだから。

例えばスクウェアRPGが女性に人気なのは、シナリオよりもむしろキャラクター(スクウェアは、女性が好む男性キャラクターを非常に良く研究していると思う)にあると考えている。シナリオはあくまで王道路線(主人公はヒロインとくっつく仕様)を崩さないし、そのヒロインは御世辞にも女性から好かれるタイプばかりとは限らない。

シナリオだけを単純に比較した場合、幻想水滸伝にはスクウェアRPGをも凌ぐ『女性心理に訴えるツボ』があると思われる。無論、私は個人的に幻想水滸伝のシナリオを書かれた村山氏という人物を知っているので、この作品がそのような意図で作られたものではないということは知っているが、偶然にしろこのシナリオにそのような効果があることは確かだと思われる。

99年の夏コミでは、イマイチ萌えきらなかったという噂のFF8を後目に、幻想水滸伝勢が大増殖するという見通しがある。萌えを見越してカタログには「FF8」と書きながらも、実際に出ている本は幻想だった…という現象があちこちで見られるかも知れない。

勿論私も、その現象を見にいく予定である。


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